萬店のじまんだな

地元に根ざした食文化を受け継ぐ「うらわのうなぎ萬店」


 明治19年の創業からさいたま市(旧浦和市)で、江戸時代から続く地元の伝統産業を紡ぐ、萬店。江戸時代からのうなぎ調理の伝統的技術を継承する事業所として『さいたま市伝統産業事業所』の認定を受けております。


江戸時代からの伝統技術を継承

 江戸時代以来、さいたま市(旧浦和市)のうなぎは、名物として市民や来訪者に親しまれてまいりました。「捌き」「串打ち」「焼き」「たれ」などの手しごとの伝統的技術を継承する老舗が集積しております。


 県立文書館収蔵「会田家文書」(江戸後期の古文書)には浦和から江戸赤坂の紀州藩邸にうなぎを献上していたことが記されているほか、「浦和宿絵図」(弘化年間、1844~48年)には「蒲焼商」の名が記載されているほど。

 

おもてなしといえば「うなぎ」


 浦和というのは不思議な土地で「寿司より、うなぎ」を選ぶ人が多く、大切なお客様や家族との集まり、お祝いなど、おもてなしといえば「うなぎ」なのです。


 萬店は、明治19年の創業以来、一世紀を超えても変わらず同じ土地で営業し続けております。それ故に地域のお客様に何世代にもわたりご愛顧を賜っております。


 2階にはゆったりくつろいで頂ける、完全個室が6部屋御座います。接待・御祝い・両家顔合わせ・結納・法事等、幅広いご用途にてご利用頂いております。


 お客様の御会食目的に合わせた細やかな“心遣い”の一つとして、床の間の生花のアレンジや、掛軸の架替え、調度品入替え、故人様を祀る祭壇設置等、ご用途に合わせて設えを整えることも可能です。

質のよい活鰻を毎日仕入れる


 うなぎの「質」・「信頼」・「鮮度」、それは最も私たちが気をつけていることです。


 うなぎを始めとする「川魚(かわうお)」は、海の魚と異なり、活きている魚でなければ調理することができません。そのため「活きたうなぎ(活鰻)」を毎日仕入れております。


 産地は、味・脂・色の優れた鹿児島産を主にしておりますが、他の産地がより優れている場合は、その時に「質」が最も良いものを仕入れます。そのため、「信頼」出来る問屋も大変重要です。


 ただし、仕入れただけではうなぎの鮮度は保てません。仕入れたうなぎを熟練職人が選別し、地下130mの深さより汲み上げた地下水の生簀に入れることで、良い「鮮度」を保てるのです。

素早い仕事が味の決め手


 活鰻を捌く技術は、一朝一夕には習得できません。一尾一尾、長さ・太さ・形・骨とすべてが異なるため、それに合わせた包丁さばきが求められます。


 熟練職人は、素材に合わせて柔軟に包丁を走らせ、一尾を一分も経たずに捌きます。それでいて骨の多い部分や、硬い部分を適切に処理することで、どなた様も美味しくお召し上がり頂けるようになるのです。

 

たれの焼ける香りと ふっくらとした鰻 これぞ伝統 武蔵野の味

 うなぎの調理法は大きく二つに分かれ、関東風と関西風があり、萬店はもちろん関東風です。


 関西風は腹開きで蒸さず焼くためパリッと香ばしく、関東風は背開きで蒸してから焼くためフワっと仕上がります。

 

 関東風の背開きの場合、串打ちした鰻の真ん中には「腹側の身の薄い部分」が来て、熱の入りやすい外側には「背側の身の厚い部分」が来ます。そのため、食感だけでなく見た目にも、関東風はより強くフワッと感を感じることが出来ます。


 萬店では、地元さいたま市の伝統産業「浦和のうなぎ」の熟練職人が、厳選した活鰻を、捌き、串打ちし、下焼き、蒸して、たれを付けて焼きます。

 

  職人は蒸し上がった鰻の1串1串を入念に確認し、脂の量や身の状態に合わせて、たれをつける量・たれを落とす量・焼く位置・火力・時間等、個体に合わせて調節をして焼き上げます。


 蒲焼は、たれのしっとり染みたご飯に乗せられ、出来立てを手早くお客様にお出しするよう心がけております。

 

明治より継ぎ足し続ける、秘伝のたれ


 「たれ」の歴史は、店の歴史です。萬店は明治十九年の創業以来、何代にも渡り継ぎ足ししてきた「たれ」があります。


 蒲焼を作るたびに、瓶の「たれ」に鰻のエキスが追加され、「たれ」の味に深みが出ます。


 瓶には減った分だけ「新しいたれ」が継ぎ足しされます。ただし、「新しいたれ」は、店内で仕込んでから1ヶ月以上寝かせてからでなければ使えません。作りたての「新しいたれ」は醤油のきつい部分があり、熟成期間を置くことで丸くなり、味・香りがまろやかになるのです。


 営業時間中、瓶は鰻を焼く火鉢の強熱で温められます。夜には熱がゆっくりと冷えながら、新旧の「たれ」が調和し風味がより増していきます。


 鰻重・蒲焼の伝統の味を堪能しつつ、「たれ」の中に、萬店の創業当時の明治から続く歴史をどこかに感じて頂けたら幸いです。


一尾に一つしかない、貴重な肝


 鰻重と供される「肝吸い」、これにも手間を惜しみません。


 「肝吸い」に使われる鰻の肝は、実はうなぎ屋ではとても貴重な物なのです。その理由は、一尾に一つしか無いのに、肝吸いや肝焼きに使われるため、いつで

も不足気味なのです。


 熟練職人が、鰻を捌く際に、肝に傷を付けないよう丁寧に包丁を走らせ、取り出た肝が崩れないよう注意しながら、ひとつひとつ手作業できちんと下処理、えぐみとなる部分を取り除き、肝吸いとしてお客様にお届けしております。


萬店にうなぎを食べに来てくださったからには、是非うなぎを存分に楽しんでいただきたいとの気持ちから、萬店の「肝吸い」には、贅沢にもそんな鰻の肝を1つまるごと入れております。


 名脇役のゆずは、埼玉県毛呂山町のゆず農家市川さんの「桂木ゆず」を使用しております。「桂木ゆず」は、奈良時代から続く最古の栽培ゆずで、香りの質・強さ・味の良さから世界最高品質を誇るゆずです。


 その中でも、市川さんゆずは、無農薬栽培なだけでなく、受粉もご自身でミツバチの巣箱を設置して行うというこだわりの逸品です。


 また、市場に出荷するものは輸送や販売の時間を考慮してすこし早めに摘果し発送されますが、萬店向けのゆずは香りがより濃くなる様に、ぎりぎりまで樹上で熟したものをご準備頂いております。肝吸いだけでなく、鯉こく、茶碗蒸し等に使用しております。

 お出汁に使用している鰹節が削りたてなのは言わずもがな。小さな皮片が大きく醸し出すさわやかな風味と供に、貴重な肝をどうぞお楽しみください。

 

由緒正しきうなぎのお供「お新香」


 鰻を引き立てる「お新香」のぬか漬け(胡瓜・大根・白菜・キャベツ・人参 等)は、創業当時から続く自家ぬか床で作っております。


 素材の水分量・気温・湿度等を見ながら、鰻をお召し上がり中の箸休めとして最適な塩分になるよう調整して漬けています。

 

 奈良漬は、浦和駅近くにて150余年続く老舗「酒井甚四郎商店」の奈良漬を100年以上に渡って提供しております。厳選した瓜を一級酒の吟醸粕を使い、1年半という時間と手間をかけて漬けられたものです。シャキシャキとした歯ごたえと、芳醇な香りと旨みが特徴の最高品質の奈良漬です。


 沢庵は、昭和の最後まで敷地内の「漬物小屋」で2代目店主の酬三(しゅうぞう)が、毎冬にその年に使う分をすべて手作業で作っておりました。現在は、提携する創業80余年の漬物店に萬店の製造法・味・塩分をお伝えし特注品として作っていただいており、「漬物小屋」の手作りと変わらない味で提供し続けております。


 江戸時代には『鰻屋でせかすのは野暮。蒲焼が出てくるまでは新香で酒を飲む』という言葉がありました。萬店の新香と、埼玉の地酒で、江戸っ子の粋を感じてみてはいかがでしょうか。